DESIGN
- 17姫抱っこ
-
「仕方ないな」
彼はそう、ひとつ息を吐いて。
軽々と私を持ち上げて歩き始めたのだった。
***
探索途中、二手に分かれていたところから合流地点へとやって来たクラウドは、自分より先に到着していたウォーリアの不自然な点に気付いた。
周囲に敵の気配が無いことを確認した次元城マップ。
ウォーリアはいつもの彼にしては珍しく、次元城の芝生、縁になっている部分に座り……空中へと足を投げ出していた。
普段ならば城の壁に背を預けて胡坐をかいているか、真っ直ぐに背筋を伸ばして佇んでいるかだというのに。
「ウォーリア」
「クラウド、来たか」
……やはりどこか不自然だ。
自分がウォーリアのところに歩み寄って行っても、彼が動く気配もない。
「――何があった」
「……やはり、君は誤魔化せないか」
「見くびって貰っては困る。……足、か?」
「ああ」
クラウドが小さく眉根を顰めながら口にすると、ウォーリアはあっさりと認め、座っている状態から地に手をついて支えながら両の足をクラウドが居る側の芝生の上へと移動させた。
……両方。クラウドの眉間に皺が深くなる。更に近付いて膝を付き、ウォーリアの足を鎧の上からそっと撫でた。ひんやりでは済まされない、明らかに鎧特有のものではない冷たさに反射的に手を離した。
「……ウォーリア」
「油断を、してしまったな」
「あんたがこんなになるなんて、よっぽどの敵か」
「いや、レベルはたいした相手ではなかった」
「ならどうして」
「少々、数がな」
「何故俺を呼ばない……っ!」
クラウドの問いに平然と答えを返すウォーリアの言葉に、クラウドは思わず掴み掛からんばかりの勢いで彼に迫る。
二手に分かれていたとは言え、彼ならば自分に知らせようと思えば出来たはずだ。何故それをしなかったのか。そして、何故彼が敵に囲まれている状況に気付けなかったのか。唇を噛み締める。
自分の事を想い苦々しい表情を浮かべるクラウドの頬に、ウォーリアがそっと手を添える。その表情を和らげるように優しい手付きで肌を撫ぜた。
「すまない、困らせてしまった」
「そう思うなら心配させないでくれ」
「一人で充分対処出来る相手だった。……ただ最後のイミテーション相手に」
「……倒すのと同時に氷でやられたか」
「ああ。私もまだまだ未熟のようだ」
そう言って微かに表情を緩めるウォーリアを見て、クラウドは瞼を伏せて、頬を撫でていた彼の手に自分のそれを重ねてきゅっと握る。
「俺のいないところで、無茶をするな」
「君が居ればいいのか?」
「……いてもいなくても、無茶するな」
「……善処しよう」
こうして心を痛め自分を心配してくれるクラウドの気持ちは嬉しくはある。が、このような表情はなるべくさせたくないものだ。目の前に居る彼に、謝罪の意を述べる。
はっきりとした約束ではないけれどそれを受け取ってくれたらしく、ゆっくりと瞼を開いたクラウドが小さく微笑んだ。
「ところで、ポーションを持ってないだろうか」
「……あいにく持ってない」
「スキルのケアルも」
「持って来てない」
ウォーリアとクラウドは、自他共に認める前衛型攻撃スタイルだ。
二人で探索する際には相手がある程度高レベルでも対応出来るように装備を整えているし、軽い怪我くらいで双方共に助けが必要になる事は少ない。増して今回の探索の目的のひとつにKP稼ぎもあった。
……よって、備えていて当然のサポートアイテムが常備されていないこともままある。……事をクラウドは今更ながらに少し悔んだ。
ウォーリアの状態からしても、拠点に戻って治療しなければならないだろう。しかし、両足を凍らされた今の彼が自分で歩ける訳でもなく。
「……仕方ないな」
――そして、クラウドがウォーリアを姫抱きにして抱えるという、何とも珍しい光景に至ったのだった。
***
……むう。
抱えられて揺られながら、ウォーリアは酷く冷静にこの状況を考えていた。
クラウドは皆の中でも比較的小柄である。自分とも頭ひとつかもう少し身長の差があり、尚且つ自分は全身に鎧を纏っていて決して軽い訳ではない。しかし、当の彼はふらつくどころが重さを感じさせることもなく自分を支え、颯爽と歩いて拠点へ向かっている。
いくら普段、身の丈程もある大剣を振りまわしているとは言えど、軽々と自分を運ぶ様子には驚きを隠せない。
「どうした、痛むのか?」
「いや、問題ない」
「ならいいが。拠点までそう遠くもないからな、我慢してくれ」
ウォーリアを抱きかかえて運ぶことを意にも介していないクラウドに、ついつい笑いが零れた。
突然笑い出したウォーリアを不思議そうに見るクラウドに視線を返す。
「たくましいな、君は」
「……褒め言葉のつもりか、それ」
「気に触ったなら謝ろう」
「ま、別にいいけど」
両足が動かせないっていうのに随分と気楽なもんだな、と息を吐く。
ウォーリアとしてはただ単純にクラウドの筋力に感心しただけなのだが、彼自身はそうは受け止めなかったらしい。
ふむ、と一寸思案して。
「……だが、そうだな」
「なんだ?」
「私としては、逆の方が好ましいかもしれん」
君に抱きかかえられるよりも、君を抱いているほうが私の中ではしっくり来るように思うのだ。
何気ない感じでそう言葉を続けたら、急にクラウドが黙り込んだ。
先ほどとは逆に今度はウォーリアが不思議そうにクラウドを見上げると、彼はウォーリアの方を見ようとせずに視線を自分の進行方向に真っ直ぐと投げていて。
「…………たら」
「ん?」
「……治ったら、いくらでもすればいいだろ」
ほんのりと薄紅に染まる頬と共にぶっきらぼうに投げられた微かな呟き。
自分を抱えてクラウドの両腕が塞がっていることに内心で感謝しながら、ウォーリアは彼の照れた横顔をじっくりと眺めて微笑んだ。
「ああ、そうしよう」
拠点が近付いてクラウドが冷静さを取り戻すのを、ちょっとだけ惜しく思いながら。
*** おまけのおまけ
「どうだ、ウォーリア」
「ああ、皆の治療のおかげで治った」
「そうか、よかった」
「うむ。……では」
「?」
回復魔法を使える仲間たちの治療を受けていたウォーリアが、立ち上がり何度か地を蹴り踏みしめて確認した後、そばで様子を眺めていたクラウドに歩み寄って来た。
何だ?と首を傾げたクラウドに、ウォーリアは手を差し伸べて。
「約束通り、君を抱こう」
「――っ!」
大真面目にそう口にしたウォーリアの言葉に、クラウドは顔中を真っ赤に染める。
確かに、今度はウォーリアが自分を「姫抱きにする」とは言った。
言ったが。
〜〜もっと言い方っていうものがあるだろうが!!
「へえ、どんな約束してたのかな?」
「シッ!それ聞いたら野暮ってもんだろーセシル」
「つか探索と言いつつ二人でナニしてたんだよって聞きたくなるよな」
「う、うぼぁ……」
次の瞬間、メテオの雨がウォーリアを襲ったのは言うまでもない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
Death Seraph “Z”/杠葉様
はい!というわけで頂いてしまいました!!!!姫抱っこ!!!!!!!!!!
pictにある17姫抱っこの絵から小説を書いてくださいましたあばばばばばば
くだらない妄想をここまで素敵にしてくださった杠葉さんまじ大人天使。
くそこいつら一生いちゃいちゃしてろ